<シニアの備え>第9部「終活」(2)

成年後見制度 自分の意思で選べる

年をとると気がかりになるのは、認知症などで判断能力が衰えることではないでしょうか。生活費や財産の管理、公共料金の支払い、介護サービスの契約などに支障が出ます。特に1人暮らしで周囲に頼れる人がいない場合などは心配だと思います。

そういうときに利用できるのが、成年後見制度の「任意後見」です。本人がしっかりしている間に、将来に備えて信頼できる人と公正証書で任意後見契約を結んでおき、時がたって判断能力が低下したら後見人として支援してもらいます。

任意後見人には身内でも、友人でも、誰でもなってもらえます。信頼できる人が周りにいないときは、司法書士らの専門家でもかまいません。地域によっては社会福祉協議会などが法人として引き受けているところもあるので、行政などに相談してください。

仕組みは、本人の判断能力が低下したら、後見人になる人らが家庭裁判所に後見の開始を申し立てます。それを受けて家裁は後見人を監督する人を選任。監督人は第三者の専門家で、後見人の業務が適正になされているかをチェックし、定期的に家裁に報告します(図参照)。

公正証書は公証役場で作成します。費用は2万円程度、家裁への申し立ての際にも5千円程度かかります。後見人に報酬を支払うかどうかやその額は当事者間で決め、監督人への報酬は家裁が本人の財産などに応じて決めます。

同制度にはもう一つ、「法定後見」といって、すでに判断能力が低下して自分で後見人を選ぶことが困難になった場合に、親族らの申し立てで家裁に後見人を選んでもらう仕組みもあります。

これに対して任意後見は、自分の意思で自由に後見人を選べ、支援してもらう範囲も決めておけるというメリットがあります。このため、「老い支度」とか「老後の安心」とか言われています。活用してみませんか。
神戸新聞(2019/05/31 金曜日 朝刊)

<シニアの備え>第9部「終活」(1)

運転免許 自信がなくなったら返納を

ブレーキとアクセルを踏み間違えて建物などに突っ込んだり、高速道路を逆走したり―。高齢ドライバーによる交通事故が絶えません。一般的に認知機能や身体機能は加齢とともに低下しますが、車の運転では重大事故にもつながりますので要注意です。

警察庁のまとめでは、75歳以上のドライバーによる死亡事故は418件(2017年)で全体の約13%を占めています。前年よりは少し減少しましたが、相変わらず高い水準です。負傷事故などを含めればその数倍にもなるとみられます。

死亡事故の原因では、やはりブレーキとアクセルの踏み間違いやハンドルなどの操作ミスが約3割と最も多く、次いで安全の不確認、漫然運転や脇見運転などの前方不注意などです(図参照)。

事故を起こしたドライバーの直近の認知機能検査では、半数が「認知症の恐れがある」「認知機能が低下している恐れがある」人でした。

75歳以上の人は免許更新時などでの認知機能検査が17年3月から強化されました。昨年3月までの1年間の集計では、この検査で最終的に認知症と診断されて免許取り消しになった人は約1900人もいます。

こうしたこともあって免許証を自主的に返納する高齢者も年々増えています。17年で約42万4千人、うち約6割が75歳以上です。返納者は5年前と比べて4倍近くにも達しています。

自主返納した人への調査では「体が弱ってきた」「家族からの一言」「事故のニュースを見た」などが大きな動機でした。

とはいっても公共の交通機関がなかったり、少なかったりする地域では、車がないと買い物や通院などで日常生活にも大きな支障をきたします。免許を返納するかどうかは悩ましいところです。

ただ、無理をして事故を起こしたのでは元も子もありません。運転に自信がなくなったら、迷わず返納を決断したいものです。
神戸新聞(2019/05/24 金曜日 朝刊)

<シニアの備え>第8部「相続と贈与」(4)

自筆証書遺言 「全て手書き」の負担軽減

自分の財産を誰にどのくらい相続させるか。その意思を書き残すのが遺言です。主に▽自筆で書く「自筆証書遺言」▽口述した内容を公証人に作成してもらう「公正証書遺言」―がありますが、このうち自筆証書遺言については今年1月13日から要件が緩和され、書きやすくなりました。

自筆証書遺言は何度でも書き直せますし、費用もかからないというメリットがありますが、これまでは偽造防止のため本文と財産目録の全てを手書きしなければなりませんでした。高齢者にはかなりの負担になり、活用されているとはいえない状況です。

このため、遺言書のうち目録に示す不動産や預貯金口座などの詳細は、パソコンなどで作成したもの、あるいは不動産の登記事項証明書や預貯金通帳などのコピーでも認められるようになりました。ただし、全てのページに署名と押印が必要です(図参照)。

ただ、自筆証書遺言は手軽に書ける半面、保管中に紛失したり、改ざんされたりする恐れもあります。不備があって無効になる場合や、遺族に見つけてもらえないなどの場合も。さらには遺言書があったことを家庭裁判所で確認してもらう「検認」を受けなければなりません。

そうしたことへの対応として、2020年7月10日からは法務局(遺言書保管所)で保管する制度も始まります。書き直した場合は何度でも保管を申請でき、一番新しい日付のものが有効になります。申請のときに署名や押印なども確認されるので、家庭裁判所での検認も不要になります。

相続の争いは財産の多い少ないに関係なく起こるといわれます。遺言があれば、例えば介護に尽力してくれた子どもの配偶者ら法定相続人ではない人にも財産を分配できます。「争族」といった泥沼化をある程度は避けられますので、ぜひとも書き残しておきたいものです。
神戸新聞(2019/05/17 金曜日 朝刊)

<シニアの備え>第8部「相続と贈与」(3)

介護などの貢献 相続人以外でも請求できる

現在は、例えば長男の妻は長男が亡くなった後も同居する義父の介護に尽くしても、遺言がなければ義父が亡くなったときの遺産を相続できません。子どもの配偶者は法定相続人ではないからです。その一方で、法定相続人である次男や長女は何もしなくても遺産を取得できます。

同居する義父母の介護を担っている子どもの配偶者は、厚生労働省の調査では全体の約1割います。別居している子どもの配偶者も含めるとさらに増えるとみられ、現状はあまりに不公平ではないかという不満が高まっています。

このため、2019年7月からは、遺産分割を相続人だけで行うのは変わりませんが、相続人以外の親族でも介護などで貢献した場合は相続人に金銭(特別寄与料)を請求できるようになります(図参照)。

請求できるのは親族なので、亡くなった人の子どもの配偶者はもちろん、おいやめいも含まれます。法律婚が前提のため、事実婚の妻やその連れ子は対象になりません。

特別寄与料を支払うかどうかやその額は当事者間の話し合いで決めますが、折り合えない場合は家庭裁判所が決めます。ただ、家裁への請求は原則6カ月以内などの制限があるので注意も必要です。

認められる貢献の内容は、無償の労務提供をして亡くなった人の財産の維持・増加に「特別の寄与」をした場合とされています。

特別の寄与というのは、例えば「介護のために仕事をやめた」「ヘルパーを雇わなくてもいいように自分が資格を取った」などの場合とみられ、単に「介護に他の兄弟は協力しなかった」などだけではなかなか難しいとみられています。

このため、実際に貢献が認められるかは相当ハードルが高いと思われますが、今は全く相続の蚊帳の外に置かれているだけに大きく前進したとはいえるのではないでしょうか。
神戸新聞(2019/05/10 金曜日 朝刊)

<シニアの備え>第8部「相続と贈与」(2)

配偶者保護 自宅で生活できるよう優遇

相続制度の見直しでは、残された配偶者がその後も自宅で安定した生活が送れるよう優遇されました。▽生前贈与(遺言も含む)された自宅は遺産の先渡しとして扱わない▽自宅に住み続けることができる居住権の創設―です。

配偶者に生前贈与された自宅(建物と敷地)は、現在は遺産の先渡しを受けたものとして扱われるため、遺産分割のときにはこれも相続財産に含めて計算されます。これでは結果的に生前贈与がなかった場合と同じ取り分になるという問題がありました。

このため、2019年7月からは生前贈与された自宅は遺産の先渡しという扱いから除外されます。分割対象は自宅以外の財産になるので、配偶者はより多くを取得できます(図参照)。ただし、これは長年の貢献に報いるという意味で結婚20年以上の夫婦間での生前贈与に限られます。

配偶者の居住権には「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」の二つがあり、20年4月からです。これには結婚期間の要件はありません。

配偶者短期居住権は、最低でも6カ月間は無償で自宅に住み続けることができる権利です。

配偶者居住権は自宅の権利を所有権と居住権に分けた上で、配偶者が遺産分割の取り分として居住権を取得すれば、自宅が子どもや他人の所有になっても住み続けることができる権利です。居住期間は遺言や遺産分割協議で一定期間とすることもできますが、原則は終身です。

この制度の創設は、遺産分割で配偶者が自宅を取得すると預貯金など他の財産の取り分が減ったり、なくなったりして生活費に困る場合があることなどへの対応です。

配偶者居住権は自宅に住むだけの権利で、遺産としての評価額は配偶者の平均余命などから決められます。このため、所有する場合と比べて低く抑えられ、その分だけ他の財産の取り分を多くすることができます。(共同)

神戸新聞(2019/05/03 金曜日 朝刊)